簿記は受験者が多い人気の資格の1つです。「資格を取得すれば就職時に有利になるはず」と考えている方も多いでしょう。しかし、簿記の資格は就職に関してあまり役に立たないという評価もなされています。本記事では、簿記の資格の概要や、就職の役に立たないと言われる理由を解説。併せて、簿記を就職時に活かすためのポイント・注意点なども紹介します。
簿記とは、日々の金銭・物品の出し入れを帳簿に記録し、最終的に決算業務につなげる作業のことです。企業の経理業務として行われていることが簿記と言えます。そして、簿記に関して一定の知識・スキルを有していることを証明するのが簿記の資格です。簿記の資格には「日商簿記」「全経簿記」「全商簿記」などがあります。資格検定を行う主体が異なる他、各検定によって傾向の違いはありますが、どの資格検定においても簿記の専門的な内容が出題されます。
この資格の取得により、簿記に関する専門性を有していることを客観的に示せるでしょう。また、資格取得を目指す中で、簿記のスキルをより豊富に身に付け高められます。経理業務を行う上で有効な知識・スキルを身に付けられる簿記ですが、一方で就職の際には「あまり役に立たない」という評価もよく見られます。一般的な認識で言えば、資格は就職時に有利に働くものです。中でも、簿記は業務に活用しやすい資格なので持っていれば仕事の役に立つはずですが、なぜ就職で役に立たないと言われやすいのでしょうか。
簿記が就職に役立つかどうかはケースバイケースです。「あまり役に立たない」という見方もされています。その理由として大きいのは、簿記の資格の希少性です。一般的に取得するのが困難な資格ほど、企業への大きなアピールポイントになります。なぜなら、難しい資格を取得していることは、高いスキルを持っている客観的な証明になるからです。しかし、簿記検定は受験者が非常に多く、また難易度もそれほど高くはありません。多くの人が有している資格であるため、就職で大きくアピールできるほどの希少性がないのです。
また、経理業務は簿記の資格がなければ対応できないというわけではありません。業務を行っていく中で必要な知識・スキルはある程度身に付けられます。例えば、経理未経験で簿記の資格を持っている人と、経理業務を経験していて簿記の資格を持っていない人であれば、資格を持っている方が有利とは言い切れません。実践経験のある人の方が経理のいろはを知っているだろうと企業が判断する可能性も高いでしょう。このような理由から、簿記の資格を持っているだけで就職が有利になると言えない部分があります。
簿記は持っているだけで就職が有利になる資格とは言い難いですが、活用の仕方によって武器にすることは可能です。ここでは、簿記の資格を就職に活かすための具体的なポイントを紹介します。
簿記は難易度が高くなく、多くの人が有する資格だと前の段落で述べました。しかし、簿記の中にはいくつかの級があり、級によって難易度が異なります。例えば、日商簿記は1・2・3・初級の4種類に分かれています。この中でも3級と初級は資格保持者が多いため、特別なアピールはしにくいでしょう。就職の武器にしやすいのは2級と1級です。簿記2級は商業簿記だけでなく、工業簿記も加わり、より専門性の高い内容が問われます。3級は合格率が約50%であるに対し、2級はグッと下がり合格率は20~30%ほどです。また、1級になるとさらに難易度は増します。1級の合格率は毎年おおよそ10%ほど。行政書士や社会保険労務士など一部の士業資格や応用情報技術者といった専門性の高い難関資格と同等の難しさがあると言われています。経理や簿記の初心者はまず合格できない資格なので、持っていれば就職の際大きなアピールになるでしょう。簿記の資格を持っていることを全面的に活かしていきたいなら、上級レベルの取得は必須です。取得は簡単ではありませんが、合格できれば大きな武器を得られるとともに、合格までの過程で高いレベルのスキルを身に付けられるでしょう。
簿記資格だけでアピールするなら難易度の高い級が必要ですが、経理の経験とセットでアピールすれば企業に気に留めてもらえるかもしれません。例えば、経理業務の経験があることに加え、簿記の資格を有している人であれば、資格を業務に活かして働いてきたというアピールはできます。経理の経験年数は企業にアピールできますが、その人がどのようなクオリティの働きをしてきたかはわかりません。そこで、経理の経験と資格の保持をセットでアピールすることで、企業は「この人は資格を有するレベルの専門性をもって、経理の仕事を行ってきたのだろう」と判断する可能性が高くなります。応募書類に素晴らしい内容が羅列されていても、実際に入社した後質の高い仕事をしてくれるとは限りません。書類だけ輝かしい人という可能性もあります。しかし「経理経験がある」「資格を持っている」この2つが揃っていれば、良い仕事をしてくれる信頼性は高くなります。資格を就職に活用する場合は、経理の経験も組み合わせながらアピールしていきましょう。
経理のスタッフがすでに何人もいるような大手の企業を狙うとすれば、簿記の資格を保持していることはあまりアピールポイントにならないでしょう。1・2級など難易度の高い級であれば話は別ですが、3級以下ではアピールは難しいです。大手企業は雇用している人員が多く、優秀なスタッフも多く抱えていると考えられます。また、大手企業は応募者が多く集まることも予想できます。このような状況下においては、それほど取得が難しくないレベルの簿記資格は目立ちにくく、ほぼアピールは無理です。
ただし、社員がそれほど多くない小規模な会社であれば資格の難易度はそれほど高くなくても、簿記の資格を有している経理スタッフを置きたいと考える可能性はあります。経理の経験などが同じくらいの応募者の中であれば、資格は持っている人の方が有利になってきます。難易度の高い簿記資格を持っている人は大手企業を狙う可能性が高いので、少し規模が小さい会社への就職を目指すのは1つのテクニックです。
簿記の資格を就職に活用する際、最も注意すべきなのは、資格に頼り過ぎないことです。これは簿記に限らないことですが、企業は応募者の資格だけを見ているわけではありません。どれだけ難易度の高い資格を有していても、例えば仕事への意欲や人柄などに問題点などがあれば採用されない可能性があります。資格はあくまでその人を判断するための材料の1つ。多くの企業が採用したいと考える人は、全ての水準がバランス良く高い人材です。簿記1級を持っていたとしても、それをアピールするだけでは不十分です。簿記の資格も含めて、トータルで自分を効果的にアピールしていくこと、これが就職活動で重要と言えます。