クリーニング代は経費にできる?

クリーニング代は経費にできる? 会計の基礎知識

フリーの立場で仕事をする個人事業主といえども、スーツなどフォーマルな服装の着用が求められるシーンは少なくありません。そして、スーツを着れば必然的に定期的なクリーニング代もかかってくることになります。ここはぜひとも経費として落としたいところ。個人事業主が必要経費としてこれを計上し、支払う税金を抑えるためにはどういったことが必要なのか、まとめてみました。

そもそも経費とは?

個人事業主がクリーニング代を経費として計上する方法を探る前に、そもそも経費とはどういうものなのかを確認しておきます。経費とは、一言でいえば、業務を行うためにかかったもろもろの費用のことです。モノをつくる際に仕入れた原料代、営業活動のために移動した際の交通費、営業資料をまとめるために揃えた文房具等の備品代など、収益を得る目的で行う活動は、すべてが何らかの経費にひもづいています。

そして、これらの経費の出入りを目的別にまとめたものが勘定科目です。一般的に勘定科目は「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」といった5つのグループに括られます。このうち、クリーニング代のように、事業を行うために使った経費は「費用」に分類されることになります。この「費用」の中には、水道光熱費や交通通信費などをはじめ、従業員を雇用する際に給与などの形でかかる「人件費」、文具など10万円未満の備品にかかる「消耗品費」、社外での打ち合わせなどにかかる「交際費」、従業員ための職場環境の改善や健康増進などにかかる「福利厚生費」など複数あります。

実際に会社が税金を納める際は、事業収入からこれら諸経費を差し引いた所得金額に課税されますので、事業主にとっては経費が多ければ多いほど、支払う税金が少なくて済むことになります。そのため少しでも多くの経費を認めてもらいたいというのが本音です。しかし、すべてが経費として通るわけではありません。国税庁は経費として認められる条件を、「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」と規定しています。

これ以外のもの、つまり事業の収益につながらないものは経費として認めていません。たとえば個人事業主が納めている所得税や住民税は、事業で使用している固定資産税、個人事業税などを除き、経費として計上することはできません。個人の社会保険なども同様です。このほか仕入れ済みであっても未販売の在庫や、未使用の文房具なども認められません。当然、個人的な購入品も計上不可です。繰り返しになりますが、経費はあくまでも事業の収益につながるものに限ります。個人事業主なので業務と私的な要素が明確に分けられず、あいまいな部分があるとはいえ、業務だけに限定されていない購入品は経費に認められないのが原則です。

では、仕事で常にスーツを着用している場合はどうなのでしょうか。仕事着として必要なものなら業務上必要な備品として認められるのではないでしょうか。しかし結論から言えば、なかなか認められにくいというのが実情です。

クリーニング代やスーツの購入費が経費に認められにくい背景は?

仕事で着ているにもかかわらず、スーツの購入費やそれにかかるクリーニング代が経費として認められにくいのは、それが私的な流用も可能だから、という理由です。根拠は昭和49年の京都地方裁判所の判例です。当時、衣服やクリーニング、散髪代金は経費として認めることができるかを争点とした係争案件について、京都地裁は「被服費は、一般的には、個人的な家事消費たる家事費に属すると解するのが相当である」として、事業の遂行上必要であっても、個人的な家事費に含められる要素がある場合は経費としては認めがたい、という見解を示しました

では家事費とはどういうものなのでしょうか。これは所得税法の「家事上の経費」で、「一般の事業の遂行にかかわるものではなく、必要経費としてはあたらないもの」をさしています。所得税法では個人の支出費用として「家事費」のほかにも「家事関連費」「事業経費」を定めており、原則として家事費以外に家事関連費も必要経費に含めることはできないとしています。ただし、家事関連費には例外事項があります。それは家事関連費にあたる項目が、生活費と明確な線引きができる場合です。

スーツの購入費やそれにかかるクリーニング代が経費として完全に認められないのではなく、「認められにくい」のはこの解釈に幅があるからです。先の京都地裁は同じ判決の中で「その被服費の支出は勤務についても関連するものとして、家事費ではなく、家事関連費であると解するのが相当である。背広等の被服費の支出も、勤務上必要とした部分を、他の部分と明りように区分することができるときは、当該部分の支出は必要経費になると認める余地がある」とも言っています。

つまり、家事費であれば経費としては認められないものの、家事関連費の部分で認める余地があるという判断です。家事関連費が家事費となるか、あるいは経費として認められるかは、客観的にその支出が事業の収益に影響を及ぼしているかどうか、という見極めしだいということになります。そのための説得力のある理由付けが必要になってきます。

クリーニング代を必要経費として認めてもらうには

個人事業主が、クリーニング代を必要経費として落とすことはもちろんできます。最も確実なのは、業務の中でクリーニング代が必須となる事業を運営していくことです。たとえば、工事関係の仕事で汚れたユニフォームや飲食店の厨房で汚れた白衣を出す場合などは雑費として認められます。また、個人でアパート経営をしていれば入居や退去時のハウスクリーニングも必要になってきます。専門業者に依頼すれば外注費として計上することもできます。

これらの場合を除き、問題はやはりスーツなどのクリーニング代の扱いです。顧客への営業活動や講演活動などスーツ着用が必須の場面があるにもかかわらず、私的な支出と見なされれば経費にできないため、どうすればスーツの購入代やクリーニング代を経費にできるかどうかを考えなくてはなりません。真っ先に取り組みやすいのは、仕事で着るスーツを私用と完全に分けることでしょう。たとえば、スーツに社名のロゴなどを刺繍するなどもひとつの方法。そこは工夫のしどころです。

また、スーツの購入費用を按分するという方法もあります。私用で着ることをあらかじめ想定し、その割合で計上するやりかたです。一週間で5日営業するのであれば、スーツの購入費の7分の5を経費として、クリーニング代にかかった費用もその割合で算出する方法です。経費として算入する条件が難しい品目であるだけに、理由づけとしては比較的説得力に富んだ方法といえるでしょう。

この解釈でいけば個人事業主にとって、スーツの購入費やクリーニング代だけに限らず、解釈次第でほかにも経費として扱うことができる項目は出てきます。たとえば、取引先に渡すご祝儀やお香典などもそのひとつ。事業を進めるのに欠かせない取引先相手であれば、交際費などの経費として認められる場合があります。ただし、その場合は領収書をもらうことはできませんので、金額と日付といった必要事項を記録しておき、慶弔時の案内状などは証拠として保管しておきます。同様に記録しておけばタクシー代や交通費も経費で落とせる場合があります。

クリーニング代を経費にするには私的生活費との線引きを明確に

個人事業主がクリーニング代を経費として落とすことはできます。しかしそれは、クリーニングすることが明らかに業務上の利益を生む行為であると判断できる場合に限られます。個人の生活に密着していて線引きがあいまいな分野だけに、経費となる理由を明らかにしたうえで、客観的に見ても業務用と私用がはっきりと区別されていることが必要です。

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